Mind & Body
このコーナーでは、はからめオススメの本や映画、音楽など、皆さんの生活がより豊かになるのではないかと私達が感じたものを紹介していきたいと思います。もし興味が湧いたら実際にご覧になってください。
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『ライオンのおやつ』 小川糸著

「明日が来ることが当たり前に信じられることは、本当はとても幸せなことなんだなぁ、」何気なく読める一文は、数ヶ月前に私が思っていたことでした。
母を癌で亡くしたとき、キッチンボルベールの竹花いち子さんがこの本を紹介してくれました。ステージWの癌で余命宣告された33歳の主人公が最期を過ごすホスピスでの暮らしを綴った小説です。 著者も母を亡くされ、その経験からこの小説が書かれたのだそうです。

死を宣告されてから今生きている時間をどう過ごすのか、この小説のように穏やかに、肯定的に自分のことを振り返ったり考えたりできるのであれば、残された人にとっても悲しみの度合いがやわらいでいけるように感じます。死にゆく人が幸せに旅立てるように、それが生きている者にとっての心からの願いです。こんな風に最期のときを過ごせたらいいな、過ごさせてあげられたらいいな。
ライオンのおやつ、そのストーリーに綴られる思い出はなんと甘く暖かいのか。食べる、とは味わうだけでなく、感じて記憶することなのですね。たくさんの記憶、たくさんの思い出を味わうのですね。

母は幸せに旅立てたのだろうか、わたしはあれでよかったのだろうか、後悔してももう取り戻すことはできません。その日々を、この小説のやさしさ穏やかさが慰めてくれました。こんな風に終われるのだったらよかった。こんな風に感じられるのだったらよかった。
生きているということは、必ず誰かの死を経由します。その密度が濃くなるにつれ、残された者、送る側の心には消えない悲しみが伴います。その悲しみを抱えながらも毎日生き続けなければなりません。旅立ちのときを肯定的に捉えさせてくれた、このストーリーに感謝したいと思います。  (よ)

『野草の手紙』 ファン・デグォン著  清水由希子訳

1985年に韓国政府に無実の罪で投獄されたファン・デグォン氏は、13年間の独房生活中に刑務所の庭に生えている野草との対話をはじめます。この本は、日記さえ禁じられた中で唯一許された週に一度の妹への手紙をまとめたものです。
野草の力によって精神的にも肉体的にも長い投獄生活を生き延びてきたファン氏の考え方は、今を生きぬかなければならないわたしたちにとっても大切なメッセージとなります。小さきものとの対話は大きな世界を感じさせます。微生物や虫、雑草といわれる名も知らぬ植物もわたしたち人間と一緒にこの世界で生きていて、彼らも呼吸をし、その呼吸をわたしたちも吸っています。呼吸を通して同じ世界で繋がっていることを感じたときに、当たり前すぎて気づかないことに気がつくのです。
ファン氏の気づきには、お酒やタバコ、贅沢な食事という嗜好品を刑務所生活で自由に得られなくなったことも影響しています。現代人は極限までいかないと、真実を知る感覚を呼び戻せないのかもしれません。
ファン氏の野草愛は文章だけでなく、挿絵を通しても伺えます。野草からわたしたち人間世界の様々な事柄を考えさせられる大きな一冊だと思います。陰極まって陽となる、人生で経験できる人は少ないかもしれませんが、その経験者の言葉から学ぶことができるのはありがたいことです。  (よ)

『一九八四年』 ジョージ・オーウェル著  高橋和久訳

ネットで本を検索すると、「この本を読んだ人はこの本も読んでいます。」と他の本の紹介が表示されます。はじめに読んだ本はオルダス・ハクスレーの『知覚の扉』でした。次に同著者の『すばらしい新世界』を読みます。『一九八四年』に影響を受け、その世界観をベースにしているとの見解を知りました。以前からこの本がいろいろな人に影響を与えているということだけは知っていました。
著者のジョージ・オーウェルは1903年生まれ、1950年に亡くなっています。この本は1949年に書かれました。私が手にしたのは2009年発行の[新訳版]です。ある人は「予言の書」ととらえるかもしれません。この救いのないディストピアを今の日本社会と照らし合わせると、恐ろしいという感情を飛び越えて現実だ、と思えてしまいます。もはや警笛ではなく、事実として受け止めざるを得ない時になってしまったとも。
唯一の救いはこれが小説であるということ。これがリアルならば、ウィンストン・スミスの精神か、それともオブライエンの精神か、いずれにせよ最終的にはみんなビック・ブラザーを愛してしまうのか…。「戦争は平和なり 自由は隷従なり 無知は力なり」のスローガン、そしてゴールドスタインの『寡頭制集産主義の理論と実践』はすごいです。著者は政治にも影響を与えた人物であったようですが、すべての人がこれを知ったらどうなるのか。みんなに知ってほしい。けれど、小説の中に留めておく方が安全なのかもしれない…。  (よ)

『森の生活 ウォールデン』 ヘンリー・D・ソロー著  真崎義博訳

アメリカのマサチューセッツ州コンコードという場所で暮らした作家、ヘンリー・デイビッド・ソローの森での生活を主に綴った分厚い本です。ソローは45歳で亡くなりました。1862年のことです。
コンコードのウォールデン湖のほとりには、レプリカですがソローが作った小屋が残されています。以前その場所を訪れたときに、自分の暮らしとの共通点や相違点を間近に感じ、どんな生活をしていたのかと想像をふくらませたことを思い出しました。本を読んで当時の世界を垣間見ることができたように感じます。ソローの森での生活は今から150年以上前のことです。わずか150余年で、経済と自然環境と人の価値観は随分異なってきたことがわかります。けれど、変わらないものがソローの言葉の中にあり、今もソローからのメッセージを受けとっているように思えることがこの本の魅力なのではないでしょうか。
難解な、詩的な、根源的な表現方法で綴られた文章です。いろいろな人が「ソローの言葉をかりれば…」「ソロー曰く」と彼の記した文章を引用しています。自分の言葉で語るよりも、秀逸なソローの表現をかりるのです。あの表現はどこからやってくるのでしょうか。この世の真理を探し求めた人にしか到達できない世界を見たのでしょうか…。作家だからと言う前に、人間としてどのようなことを探求していたのかを考えてしまいます。その哲学的な思想はソローの本を完読した人にだけ響くのかもしれません。  (よ)

『モモ』 ミヒャエル・エンデ著 大島かおり訳

「タイトルは知っている、時間泥棒のお話だよね?」
もっとはやく読んでおけばよかった!いや、このタイミングで読めて本当によかった!と思えるとても面白い本です。児童文学といわれるジャンルに分類されていますが、かつて子どもだった大人にこそ楽しめる内容ではないでしょうか。モモは小さな女の子、家も親も財産もありません。相手の話をじっくり聞くことが得意で、モモに話せば自ずと自分の中に答えを見つけることができるようになるので、みんなモモに会いにきます。だからモモは孤独ではありません。みんなが時間をうばわれてしまうまでは…。
1976年に出版され、今も愛され続けているこの本の訳は「作者のみじかいあとがき」を読めばすぐにわかります。これは過去にあった話?いいえ、今の話かもしれない、それとも未来…。時間と人生についてのお話です。  (よ)

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